歯科の豆知識 vol.6咬合性外傷ってご存じですか。2019年5月18日


「数日前から噛むと痛い」。
「痛いので、歯と歯を合わせることができない」。
患者さんがこんな訴えをなさるとき、歯科医師は色々な病名を頭に浮かべます。

 

 

 

<病名はなにか、さぐる>
むし歯で痛みが出るのは誰でもわかりますね。

歯周病は、通常は痛みのない疾患で、それがかえってこわいところなのですが、急性症状を示すときはやはり痛みがあります。噛むと痛いという症状も出ます。

このほか、歯が割れてしまっているときも噛むと痛いですし、神経をとった歯の根の周りで炎症が起きていると、やはりこれも噛んだときの痛みの原因になります。

患者さんの訴える表現、診た感じ、触った感じ、X線検査の結果などから総合的に判断して
、歯科医師は該当する病名にたどり着いていきます。そして、それに対する治療を施していくのです。

 

 

<噛み合わせが原因の場合>
さて、最初に戻りましょう。
「噛むと痛い」という訴えに対する処置がまだでした。

むし歯はなく、歯周病の急性症状は起きていない、歯が割れている様子もない。

でも、打診(だしん)といって、歯をコツコツ叩いたときのお痛みがある、場合によっては激痛がある、という場合があります。X線写真を撮ってみると、少し気になる写り方をしている・・・。

このとき歯科医師の頭に一つ浮かぶ病名が「咬合性外傷(こうごうせいがいしょう)」です。
これは、文字通り、「噛むことによって怪我をしている」という状態を言います。
どこが怪我をしているかというと、歯の根っこの周囲を取り巻く組織です。

 

 

この図でわかるように、歯は歯槽骨(しそうこつ)という骨に埋まっており、歯と骨の間には「歯根膜(しこんまく)」というクッションの役割を果たしている軟組織があります。
何らかの理由で歯に強すぎる力が加わると、この歯根膜が傷ついてしまい、それでお痛みが出るのです。

その場合は、応急処置として噛み合わせの調整をさせていただくと、痛みが一時的に治まることが多いです。ただ、仮に痛みが引いても、なぜそのような症状が起きたのかを考えることが大切です。もしかしたら、病気がどこかに潜んでいるかもしれません。

なお、この症状が起きる場合としては、たとえば

・被せ物や詰め物が高い(強く当たりすぎている)
・歯がない部分をそのままにしていて、残っている歯に負担がかかりすぎている
・寝ている間もしくは日中に、歯ぎしりや食いしばりをしている
・他の場所に問題があり、無意識のうちにかばおうとして、普段と違う噛み方になっている

など、いくつかのケースが考えられます。
このような問題がある場合は、痛みが出ている部分だけでなく、お口の中全体のチェックが必要になりますので、全体を診させてください。

ちなみに、この咬合性外傷、定義は次の通りになります。
すこし難しいかもしれませんが、正確な定義を記します。
(日本歯周病学会編 『歯周病の検査、診断、治療計画の指針』2008)

 

咬合性外傷の定義

咬合力により生じる深部歯周組織(セメント質、歯根膜、歯槽骨)の傷害であり、
健全な歯周組織に過度な咬合力が加わり生じる一次性咬合性外傷と歯周炎による組織破壊の結果、支持歯槽骨が減少して生じる二次性咬合性外傷に分けられる。
咬合性外傷は一歯単位の診断名である。

 

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